望まぬワンルーム暮らしにも慣れて来た頃、新たな入居所がやって来る・・そんな事ってありますよね?
あります。そう、閉鎖病棟にもね。
ある日の昼下がり、いつものように暇を持て余して無限の時間と格闘していると、西隣の独房から物音や人間のしゃべり声が聞こえた。一人は看護師のようだが、もう一人は聞いたことがない男の声だ。
どうやら新しい人が入ってきたようだ。名前をS木さんとしておこう。
部屋の配置の関係でお互いの様子は全く見る事ができない。一体どんな人なのだろうか・・
耳をすまして、どんな人なのか確認・・する必要はなかった。
この男、めちゃくちゃうるさいのである。
完全に躁病のようで、「オイこら」「しばくぞ」「何じゃワレ」みたいな罵声をひたすらまくし立てまくったかと思うと、よくわからない古い歌謡曲を大声で歌ったりと、完全にノンストップワンマンショー状態だ。
さすがの俺も我慢できず、
俺「うっさいんじゃ、オッサン!黙れや!」
と応戦してみる。
S木「何じゃコラ!xlkじぇごえkljsづえkwりゃああ!!!!」
と案の定、ヒートアップするS木さん。さらには、
S木「俺はヤクザやぞ!ワレはどこのもんじゃ!」
とか言ってくる。ムカつくなー。よし、ここは応戦だ!
俺「京大や!京大工学部やで!修士課程も出とるぞ!」
S木「何やと~?嘘やろ!ほな、校歌うたってみろ!ホンマやったらな!」
(こ、校歌・・だと?そんなもん知らんぞ!??てか正式には学歌っていうはずやけど。てか入学式、卒業式とかで数回しか聞いたことないし・・メロディも歌詞も全くわからん・・ど、どうすれば・・??旧制三高の寮歌ならちょっとわかるけど・・くれないもーゆるーおかのはなー♪・・・)
とアタフタしていると・・・
S木「やっぱり嘘やんけ!この嘘つき野郎!」
と、この俺をフカシ野郎認定してきやがった。くっそー!めっちゃむかつく!!!ホンマやっちゅうねん!現役で京大入って院まで卒業しとるわ!ムキーーー!!!
てかフカシ野郎はお前やろが!ヤクザがそんな簡単にヤクザやなんていうわけないやろ!!
俺「おっさん、ヤクザやって言ったけど、どこの組やねん?」
S木「山口組や!」
俺「ほー。山口組の何次団体や?直系組長のわけないよな?誰に盃もらったんや?」
S木「・・・・・・・(沈黙)」
俺「まさか自分のオヤジがだれか忘れたわけちゃうよな??ん?」
S木「・・・・・・・・・(沈黙)」
俺「やっぱり嘘やんけ!このフカシ野郎が!!!!」
トラ!トラ!トラ!我、逆襲に成功せり!
てな感じで、お互いに全く顔が見えないので古き良き匿名掲示板のように安心して煽りあえるのが隔離室なのである。おわかりいただけただろうか?
みなさんも次にワンルームマンションを探すときは一考してみてはどうだろう?
(次にS木さんに会ったときはめちゃくちゃ物静かだったりするのだが、それはまた別のお話)
こうして閉鎖病棟の夜は今日も更けていくのであった。まる。
この話に、ひとつ教訓的なものを付け加えるとするならば、「自分の出身校の校歌ぐらいは歌えるようにしておいたほうがいい」という事だろうか。地の底に落ちた時、疑われますよ、アナタ。
(続く)
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