さて、登場人物が非常に少ない独房編だけど、たまには新キャラを登場させるぜ!
前々回から独房内を自由に歩き回れるようになったので食事窓から廊下を眺めていたのだが、ある日の夕食後しばらくすると看守に連れられて謎の鉄の扉の向こうからやってくる初老の男がいた。
仮にN野さんとしておこう。N野さんは夕食後になると扉の向こうから現れ夜を自分の斜め前の独房で過ごし、朝になるとまた扉の向こうに連れられて行った。
看守がいるとしゃべっていると怒られるが、普段はだれもいないのでちょくちょくN野さんと話をした。(晩御飯から消灯の間しか話せないが。) N野さんは自分の事を多く語ってくれた。(まあこんな所にいればみんなそうなるよな)
- 高専で化学を勉強した
- A高専のほうがK高専より賢いんやぞ!(そ、そうなん?)
- 危険物甲種の資格持っとるんやぞ!丙種ちゃうぞ、甲種やぞ!
- 〇県警の△警部と知り合いやぞ!パトカー乗せてもらったことあるぞ!
- 優秀な弟がいたけど死んでしもた。くっそアイツめ・・(悲)
- 今はこんなところにいるけどきっと姉さんが迎えに来てくれるはずや。(うんうん)
- 俺には嫁さんが三人いる! (ん??んんん?!)
- 田中良子、比内めぐみ、森本ミカロン!!(みっ、ミカロン??)
- 田中良子はおっそろしく美人やぞ!20歳や!マクドナルドでバイトしとる!(お、おう・・)
・・ちょっと落ち着こう・・
ちょっと頭の中に違う次元の空間が出現している可能性は否めないが、N野さんは基本的にすごくいい人だった。
口癖は「渋い~!」
いい事や面白い事があるたびに「渋い~!」と連発するのだ。マジで渋いぜ!(?)
ある日の夕食後、いつものようにN野さんが鉄の扉の向こうから独房に帰ってきた後、
「よろいくん、よろいくん!」
と呼ぶ声がする。(あ、俺のことね。さまいよいすぎたよろい君です)
食事窓からN野さんの独房を覗くと、なにやらくしゃくしゃに丸めた紙の塊を握りしめている。
「ええもんやるわ!受け取り!」
その塊を結構ナイスなコントロールでこちらの独房の食事窓にむかって投げてくれた。こっちも見事キャッチ!
くしゃくしゃの紙を開いてみると、それは・・マガジンのグラビアページだった!水着の女の子が写っている!!
「ええやろ?渋いやろ?」
と満面の笑みで話しかけてくるN野さん。
確かにめっちゃうれしい。壁と畳と便器しかない部屋に、水着の女の子の写真である。そりゃ、もう、圧倒的な癒しである。
「し、渋い~!」
と思わず俺も唸るしかなかった。まじで渋いぜ、N野さん!
(しかし穴が開くほど見たはずのそのグラビアアイドルがどこの誰なのかは今では全く覚えていないのであった・・なんでや!)
(続く)
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